ゆで卵シミュレーター(伝熱工学解説)

この記事では、ゆで卵シミュレーター(うま味+)の内側のロジックを説明します。

データアーティスト様・AISSY様に提供させて頂きましたゆで卵の伝熱シミュレーター。
卵の短径,初期温度,標高を入力することで、卵の温度分布の時間変化と黄身の固まり具合別の茹で時間を計算できます。
この記事では、シミュレーションに使用している伝熱工学理論を説明します。まずはシミュレーターを試してください。
(リッチなUI版は、データアーティスト記事をどうぞ。)




ゆで卵シミュレーター




黄身温度 画像 卵の状態 旨味指数
(減少率)
茹で時間
58度以下 まだ固まりません 2.50 計算中
表面64度
中心21度
茹で具合:レア
白身は十分固まっている
黄身粘度はケチャップ~ハチミツ程度
2.49
(-0.5%)
計算中
表面73度
中心36度
茹で具合:ミディアムレア
黄身の外側が固まり始める
黄身粘度はピーナッツバター程度
2.46
(-1.5%)
計算中
表面81度
中心53度
茹で具合:ミディアム
黄身がしっとりと固まった
色がオレンジ色~黄色に変化
2.45
(-2.0%)
計算中
表面85度
中心63度
茹で具合:ウェルダン
黄身は十分固まっている
2.43
(-2.8%)
計算中
表面91度
中心78度
茹で具合:ハードボイルド
黄身のパサつきを感じる
かすかに硫黄の臭を感じる
2.18
(-12.8%)
計算中

本シミュレーションの結果は以下のレシピを用いた場合に再現性があります。
1.卵を沸騰したお湯に卵を入れる。
2.卵を湯から取り出し後、流水(水道水)で30~1分冷やし、氷水につける。 (卵を氷水で冷やすのは、季節による気温変化の影響を除くためです。)

■伝熱工学的な説明

熱が伝わる現象を解明したのはフランスの数学者フーリエ(1768-1830)です。数学や統計力学など色々な分野で頻出するテーマですが、僕が習った”伝熱工学”的な方法で説明を書くことにします。(学部授業で習った程度です。定義など間違えあるかと思います。専門家の方訂正下さい。)

■熱とは

どんな物質も原子の繋がりによって出来ています。その数は1兆×1兆の大きさ(アボガドロ数のオーダー)になります。その原子は物質上で振動(1秒間に10兆回位)振動しています。その振動エネルギーが「熱」と呼ばれています。「原子の振動数が多い=熱エネルギーが多い=温度が高い」ということになります。

■熱伝導とは

熱とは振動エネルギーです。ゆで卵の場合を考えると、高温の湯(原子の振動が激しい)がまず卵の外側の原子の運動を活発化させ、さらにその振動が内側の原子の振動を活発化させていく…という振動の伝播が繰り返されていく。その過程が”熱伝導”であり、「ゆでる」という調理において食に火が通っていく現象です。

■ゆで卵への熱伝導方程式の導入

ここは端折る感じで。キーワードだけ書きますので、興味のある人は検索しながら。 卵を完全な球とみなして” 球体の熱伝導方程式”を”有限要素法の陽解法”で解いています。

■具体的な計算過程と、考えられる誤差

【誤差1】卵の短径を球の直径とみなして使用
【誤差2】熱拡散係数は黄身/白身の2つを調べて使用。(固まった後の物性の変化は見つからなかったので使用せず。また、卵殻は見つからなかったので使用せず)
【誤差3】卵の熱伝導のみを考慮し白身の対流(あるかもしれない)などは考慮せず
【誤差4】卵の黄身の直径は卵短径の65%と設定

■誤差補正

計算の結果、実際の間隔よりやや短い調理時間が最適と算出されました。誤差の一番の原因は誤差1(卵の短径を使用)にあると思いますが、例えそれを解決するため二次元格子状で計算を行っても、誤差2~誤差4は解決できないと思い、補正係数をかけて補正。補正根拠は卵を茹でる実験によって作成。※サンプル数は不安

■初期パラメータと調理時間について

目的変数を卵の中心温度=Tcとなるまでの時間(調理時間)は、以下のようになる。(球体熱伝導の式の係数より)

・卵と沸騰水の温度差(T沸騰水 – T卵の初期温度)の二乗に反比例
・卵のサイズ(直径)の二乗に比例

シミュレーション内で物体のサイズを変えると、シミュレーションの数値安定性が失われたりするため(※有限要素法の陽解法デメリット)シミュレーション内での計算ではサイズは一定として計算しており、アウトプットする時間のみを変更しています。

■卵のタンパク質の熱変性について

卵の白身に熱を通すと、卵のタンパク質の構造が熱により壊れてしまい、液体状透明から固体状白色になります。これが、タンパク質の変性現象です。 卵の中にはタンパク質が複数種類含まれており、そのタンパク質毎に熱変性温度は違うのですが、簡単に言うと、卵の白身は73℃、黄身は63℃を超えたあたりから固まり始めます。
ただ、熱変性はある一定温度を超えるとすぐに起こるものではなく(例えば氷が水になる場合は0℃を超えた瞬間に反応が始まるが、タンパク質熱変性はそのように閾値を超えればすぐに起こる訳ではない)、また、変性までに要する時間もタンパク質によって異なります。このようにタンパク質の熱変性は複雑なので、今回は実験結果をもとに出力結果を調整しました。

■調理後の余熱について

ゆで卵の場合の余熱とは、お湯から取り出した後でも、より高温の卵の外側から、温度の低い卵の内側へ熱が伝わっていくことを指し、今回のように調理後に冷水で冷やす場合でも、黄身の温度は調理直後より2~3℃ほど上昇するとシミュレーション上で計算できます。
ちなみに、卵の熱伝導に関する研究は、英国エクセター大学の Charles D. H. Williams教授の1997年の研究をリスペクトしています。

4 thoughts on “ゆで卵シミュレーター(伝熱工学解説)

  • Pingback: 【調理sim】ゆで卵の熱伝導 | 自己流フードサイエンス

  • 2015年08月01日 at 12:46
    Permalink

    ゆで卵を茹でる時は、割れた時に白身すぐにが固まるように
    塩を入れて茹でると、家庭科でも教えていると思いますので、
    その分のモル沸点上昇を考慮したシミュレーションはできないでしょうか?

    Reply
    • 2015年08月01日 at 23:19
      Permalink

      割れたとき白身をしっかり固めるほどの塩分濃度ってどれ位なんでしょうかね。家庭科の本になんて書いてあるか気になります。
      海水程度(3.5%)の塩加減があれば大丈夫でしょうかね。

      1kgの水に,1mol(58.5g)の塩(NaCl)入れた場合、
      ①Na+/Cl-に分離するので×2
      ②水のモル沸点上昇は、0.52(K/mol・kg)
      より、沸点上昇は0.52×2=1.04℃

      海水と同じ濃さの場合は、
      1.04*35/58.5=0.62℃の水温上昇。

      意外と上がらないもんなんですね。
      精密な温度計を持ってないんですが、今度ちょっと実験してみようかな。

      Reply
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